「今後も、あと少なくとも5年は強くなり続けられるような気がしています」
この言葉をNumberの巻頭インタビューで発したのは、2021年の藤井聡太二冠――ではなく、1994年の羽生善治五冠。羽生は当時23歳、初の名人位を獲得した直後だった。
羽生が誌面を飾ってくれたのは、毎号、注目すべき若手アスリートを紹介する連載「the face」。このことを思えば、昨年9月に出した小誌初の将棋特集へと続く流れは、既に26年前に始まっていた、ともいえる。
しかし、いま振り返ってみると、1994年の羽生が口にした「少なくとも」はあまりにも謙虚な言葉だったことがわかる。
それからも長らく斯界の第一人者であり続け、2020年末には、50歳で竜王戦七番勝負に臨み、前人未踏のタイトル戦通算100期へと挑んだのだから。
25年前の羽生が語った「将棋に似ているスポーツ」とは?
羽生は翌95年にもNumberに登場(山崎浩子さんのインタビュー連載「マイ・フェア・ピープル」)。そこでは、将棋とスポーツの共通点について、こう語っていた。
――スポーツ観戦もお好きだとか。
「ええ、サッカーとかテニス、バスケット、ラグビーにF1といろいろ。7割ぐらいは単なる趣味で、あと3割は自分の将棋のためですね。役にたつ部分も結構あるんですよ。
集中力を高めるとか、流れを変えるとか、あるいはその場にどうなじむかとか、そういうのは全部共通してるんですよ。だから観てて非常に面白いですね」
――特にどのスポーツに似てますか。
「テニスです。テニスってトータルのゲームポイントで勝っても、試合は負けることがありますよね。で、サービスゲームを交互にやっていくとか、
シングルスの場合、ひとりで流れを変えることに努力したりとか、そういうところが、すごく似てるし役に立ちますね。
それに実力の差がないときに、どうやって差をつけるかっていうところも似てる。将棋の世界も、トップの人たちは、差がほとんどないんですよ。
その、ない差をどうやってつけるかっていうのが、いちばん大きな、みんなが考えてる課題だと思うんです」
将棋はスポーツか? 棋士はアスリートか?
今回、棋士をアスリートとして描いた将棋特集第2弾「藤井聡太と将棋の冒険」では、8年ぶり(前回は801号)に羽生のインタビューが実現した。
1勝4敗で敗れた竜王戦の詳細をはじめ、印象深い話をたくさん聞くことができたが、こんな質問にも、よどみなく答えてくれた。
――将棋はスポーツか、棋士はアスリートか、という議論についてはどのような見解でしょうか。
「アービター(審判)もコーチもいるチェスは頭脳スポーツにカテゴライズされていますけど、江戸時代の家元制度から続く将棋との歴史的背景の違いはあります。
スポーツも文化的な側面を併せ持つので、どちらにスポットを当てるかということでしょう。将棋は肉体のパフォーマンスが結果に反映するわけではないですが、
長時間の対局で消耗し疲労する棋士とアスリートとの共通点はあると思ってます。肉体的な要素は16歳で初めて順位戦を夜中まで指した時から感じてきましたから」
自身のアスリート性を少なくとも34年前に実感していたという羽生は、それからずっと大舞台に立ち続け、熾烈な戦いを重ねてきた。その驚異的な息の長さをもたらす力の源泉は一体どこにあるのか。
藤井聡太二冠をはじめとする次世代の台頭に思うことは、そして自身の未来は――。時に笑顔を浮かべ、時に真剣な眼差しで語られた、史上最高の棋士の肉声は、どこまでも透き通っていた。
1/7(木) 17:06配信 ナンバー
https://news.yahoo.co.jp/articles/dfb6a27efe6d9a026d9f5657a5d2752c338f1aec
この言葉をNumberの巻頭インタビューで発したのは、2021年の藤井聡太二冠――ではなく、1994年の羽生善治五冠。羽生は当時23歳、初の名人位を獲得した直後だった。
羽生が誌面を飾ってくれたのは、毎号、注目すべき若手アスリートを紹介する連載「the face」。このことを思えば、昨年9月に出した小誌初の将棋特集へと続く流れは、既に26年前に始まっていた、ともいえる。
しかし、いま振り返ってみると、1994年の羽生が口にした「少なくとも」はあまりにも謙虚な言葉だったことがわかる。
それからも長らく斯界の第一人者であり続け、2020年末には、50歳で竜王戦七番勝負に臨み、前人未踏のタイトル戦通算100期へと挑んだのだから。
25年前の羽生が語った「将棋に似ているスポーツ」とは?
羽生は翌95年にもNumberに登場(山崎浩子さんのインタビュー連載「マイ・フェア・ピープル」)。そこでは、将棋とスポーツの共通点について、こう語っていた。
――スポーツ観戦もお好きだとか。
「ええ、サッカーとかテニス、バスケット、ラグビーにF1といろいろ。7割ぐらいは単なる趣味で、あと3割は自分の将棋のためですね。役にたつ部分も結構あるんですよ。
集中力を高めるとか、流れを変えるとか、あるいはその場にどうなじむかとか、そういうのは全部共通してるんですよ。だから観てて非常に面白いですね」
――特にどのスポーツに似てますか。
「テニスです。テニスってトータルのゲームポイントで勝っても、試合は負けることがありますよね。で、サービスゲームを交互にやっていくとか、
シングルスの場合、ひとりで流れを変えることに努力したりとか、そういうところが、すごく似てるし役に立ちますね。
それに実力の差がないときに、どうやって差をつけるかっていうところも似てる。将棋の世界も、トップの人たちは、差がほとんどないんですよ。
その、ない差をどうやってつけるかっていうのが、いちばん大きな、みんなが考えてる課題だと思うんです」
将棋はスポーツか? 棋士はアスリートか?
今回、棋士をアスリートとして描いた将棋特集第2弾「藤井聡太と将棋の冒険」では、8年ぶり(前回は801号)に羽生のインタビューが実現した。
1勝4敗で敗れた竜王戦の詳細をはじめ、印象深い話をたくさん聞くことができたが、こんな質問にも、よどみなく答えてくれた。
――将棋はスポーツか、棋士はアスリートか、という議論についてはどのような見解でしょうか。
「アービター(審判)もコーチもいるチェスは頭脳スポーツにカテゴライズされていますけど、江戸時代の家元制度から続く将棋との歴史的背景の違いはあります。
スポーツも文化的な側面を併せ持つので、どちらにスポットを当てるかということでしょう。将棋は肉体のパフォーマンスが結果に反映するわけではないですが、
長時間の対局で消耗し疲労する棋士とアスリートとの共通点はあると思ってます。肉体的な要素は16歳で初めて順位戦を夜中まで指した時から感じてきましたから」
自身のアスリート性を少なくとも34年前に実感していたという羽生は、それからずっと大舞台に立ち続け、熾烈な戦いを重ねてきた。その驚異的な息の長さをもたらす力の源泉は一体どこにあるのか。
藤井聡太二冠をはじめとする次世代の台頭に思うことは、そして自身の未来は――。時に笑顔を浮かべ、時に真剣な眼差しで語られた、史上最高の棋士の肉声は、どこまでも透き通っていた。
1/7(木) 17:06配信 ナンバー
https://news.yahoo.co.jp/articles/dfb6a27efe6d9a026d9f5657a5d2752c338f1aec